使命とすること

虐待防止のためにできることを

本作は、アンガーマネジメントと虐待防止という2つの側面を前面に出しています。そこで、どちらが主なのかと迷う方がいらっしゃるかもしれません。本作の中心にあるのは虐待防止です。そのための1つのアプローチとしてアンガーマネジメントも活用しています。

児童虐待、高齢者虐待といろいろありますが、いずれも「虐待」とは起こってしまった悲しい結果をさす言葉であって、その原因に由来しません。虐待の原因はさまざまであり、対処法も多種多様になってきます。

そういう意味では、今回のゲームで私たちが提供する「怒りのコントロール(アンガーマネジメント)」という学びは、虐待につながる原因の1つに向けたもので、虐待防止のすべてをカバーできる取り組みではありません

あくまで等身大に実行できる、小さな活動に過ぎませんが、わずかでも虐待防止に貢献できることを願って、活動しています。このページでは、私たちが何を目的に、どのようなアプローチで本作を作っているのか、その目的意識や狙いについてまとめます。

どんなゲームを目指すのか

世の中には、すでにたくさんの方が虐待防止のための活動をしています。それでも、課題はまだたくさん。虐待を根絶するのはすごく難しいことのようです。

そこへ私たちはどうアプローチするのか。話し合ってたどり着いた回答は「すべての人が虐待の加害者になりえる」と自覚することでした。すべての人が「自分もやってしまうかもしれない」と自覚し、防止に努めることが大切なのではないか。そう考えました。そこで本作では、ゲーム体験を通じて「人生のいたるところに人の心を暴走させるトリガーが存在する」「誰しもが虐待加害者になってしまう危険はある」と感じもらうことを目指します。

また「怒り」の感情コントロールに役立つ知識として、近年注目を集める「アンガーマネジメント」の要素を部分的に取り入れます。

学びのゲームとしての重要アクティビティ

虐待防止に対する関心を高め、学びを得るボードゲームとして、本作がもっとも重視するアクティビティは、プレイヤー自身が過去を振り返って、自分の心が怒りに満ちた体験について語ってもらうことです。

なぜ、体験を語ることが大切なのか? それは今、私たちが「怒りに我を忘れる」といった経験を恥だと認識する道徳心によって、その体験を話す機会をふさいでいると考えたからです。「虐待」という話題になれば、なお重く、おぞましいものであり、そう気軽に話し合えないタブー感が存在しています。


「いや、虐待に関しては、タブーじゃなく身近にないから話題に出ないだけでは」と考える人がいるかもしれません。たしかに人命が失われるほど苛烈な虐待はまれでしょう。しかし自分より立場の弱いものに暴言を吐く人、手を挙げる人は身近で見たことがあるのではないでしょうか。

でも、こうした話題全般のタブー感が強いために、たとえば「聞き分けない子どもに腹が立って叩いてしまった」という正直な反省を語るにも勇気が必要です。暴力や暴言がよくない、恥ずべきことだという道徳観は維持すべきでしょう。しかし「誰もが不完全な人間である」という認識の不足が、タブーを生んでいます。このような状況は、加害行為の隠蔽を助長するうえ、他人から助けを受けるチャンスを減らします。


語り合いによって、誰もが不完全であり、虐待加害者になりうると再確認することが本作の中心テーマです。

虐待を起こしてしまう人々の多くは、決して「冷酷な怪物」ではありません。弱い心を持つ、私たちの日常とつながっています。そのことを直視することこそが、虐待防止を推し進める私たちなりのアプローチです。